大阪・黒門市場に、京都・錦市場、神戸・南京町。観光客が増える名所で、飲食店が失敗しがちな集客のワナ⑤
これまでは常連客・地元客と観光客・旅行客のニーズをそれぞれ比較しながら、どちらの声にも応じている店舗の事例を紹介してきました。
前回取り上げたのは、筆者が今までに取材をした店舗の中から、泉州にある居酒屋店主へのインタビューをもとにしたケースです。
今回は、より都心部の店舗での成功事例を紹介していきます。
インタビュー事例:神戸の中華料理店オーナー様
取材をさせて頂いたのは、神戸の市街地にある中華料理店のオーナー様です。
いくつもの飲食店やショップがひきめきあっている激戦区で、店舗を構えています。とくに食べ歩きが人気のエリアで、周辺の店舗にはないやり方で集客をしています。
「まわりの店舗は、食べ歩きできるように、手軽に食べられる揚げ物やスイーツを販売しています。でも、うちは一切していないんです。店内で、正規の料理を食べてもらいます。食べ歩きだと100円~300円、高くても500円で売らないといけない。使える食材は限られます。料理のクオリティも上げられません。それでお店の評判が決まるので、うちには向いていません。」
食べ歩き客をターゲットに商売をすることが、このエリアでは常識。しかし、オーナーはあえて食べ歩きに適した商品を販売していません。では、どうしているのか。
「食べ歩きで4~5品食べたら、1500円くらいになるでしょう。うちでは1500円前後のセットメニューを、5つ出しています。北京ダックかやフカヒレなどがついて6~10品食べれます。これが人気なんです。食べ歩きするよりも、食べ歩きと同じ予算で豪華な食事をお得にできます。」
料理の内容を知れば、お客様は納得して食べ歩きよりも、店内での食事を選ぶそうです。さらには、観光客向けに贅沢なコース料理も提供しています。北京ダックやフカヒレ姿煮だけではなく、神戸牛といった地元の食材を使用。
また常連客向けには、3,000円から食べられるコース料理があります。さらに飲み放題は500円という価格設定。利用シーンに合わせて単品(1,000円以内)、セット(1,500円~2,000円台)、コース(3,000円)料理を選べるように提供しています。
どれもお得感から宴会の予約がひっきりなしに入るそうですが、オーナーや料理長の気前の良さにも人気の理由がありそうです。
「飲み放題も人気ですが、持ち込みでも大歓迎ですよ。料理に満足をしてもらえたらいいので、お客さんに喜んで頂けたら、それでオッケーです。持ち込み料もいりません。料理長もお客さんに美味しく料理を食べてもらえるように、すごい工夫しています。見た目は中華料理ですけど、ここでしか食べれない料理ばかりです。」
実際に料理を見せて頂きました。例えば、北京ダックにはリンゴを包んで食べます。食感を残した切り方をしているので、新鮮なリンゴの甘味とシャキシャキ感で、肉の旨みと食感が際立ちます。
また小籠包の具材の1つに使っているのは、カニ味噌です。薄いモチモチの皮から溢れるカニ味噌の出汁。”意外な組み合わせの良さ”に虜になること必至。
定番の中華料理をそろえていますが、1つ1つを見れば食材から調理法、味付けまで、ほかにはない逸品ばかりをそろえています。
中華料理をただ進化させたいのではなく、日本のお客様に少しでも美味しく食べてもらえるように工夫をする料理長の姿勢が、常連客に高く評価されているそうです。
「1回限りのお客さんは少ないですね、通い続けてくれるお客様が多いんです。初めてのお客さんも嬉しいですが、2回目3回目になると、もっと有難いことですね、食べ歩きに合わせて商売をしていたら、こうはなっていません。」
以前のコラムで、常連客が重視するのは店主・スタッフの人柄と言いましたが、顧客のことを考え抜いているお店が、お客様から人柄の良さを評価されているのではないか。これがインタビューの結果、筆者が抱いた感想の1つです。
さいごに
これまで記事にしてきた成功事例をベースに、対策を簡単にまとめておきましょう。
■地元客・常連客への対策
■グランドメニュー以外の日替わりメニュー・裏メニューを充実させる。
■近隣店舗にはないサービスを提供する。(例:深夜営業/リーズナブルな飲み放題/食材や調理法にひと工夫を加える)。
■店舗の魅力・世界観、店主の考え方・嗜好をしっかりと打ち出す。(例:芋焼酎に特化する/地元の若者・クリエイターが集まるスポットにする/食べ歩き商品は販売しない)
■地元客が集まる地域ならではのイベントを開催する。(例:浴衣を着て祭りを一緒に楽しむイベント)
■地元の食材を使ったメニュー、地元の名物料理・郷土料理を看板料理にして提供する。
■低価格で店頭販売をするのではなく、豪華なコース・セットメニューを提供する。
まとめは以上です。
今回は大変長いシリーズなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。常連客・観光客どちらもを長期的に集客できるよう、その方法を見出すヒントになれば幸いです。