実家のお好み焼き屋は、あまり美味しくないけど繁盛店でした

あまり美味しくなかった実家のお好み焼き屋が繁盛した理由は、客層と○○にあった
筆者の実家では、お好み焼き屋を経営していました。祖母が始めた、10席ほどの小さなお店です。

絶品と言えるほどのお好み焼きは、提供していません。

以前、メニュー開発のコラムで紹介した『ぼんくら家』(https://colum.shokujob.com/wp/news/2018/04/2217/)さんのように、「巨乳焼き」「8時だよ!海鮮集合!」など面白くて、美味しい目玉商品があれば強いのですが、そのような売りもありませんでした。

でも、常連さんで賑わうお店でした。今になってふと気になりました。なぜ、味は突出して美味しいわけではないのに、それなりに繁盛していたのだろうか。

当時のことを振り返ってみて、筆者の視点で分析をしてみました。

美味しくないお店が繁盛した2つの理由

あまり美味しくなかった実家のお好み焼き屋が繁盛した理由は、客層と○○にあった
祖母がお店を開業したのは、今から30年ほど前。大阪府堺市内で、お好み焼き屋をオープンさせました。

政令指定都市として栄える堺市ですが、お店があったのは市街地ではなく田舎町です。飲食店は初めての経験だった祖母でしたが、巷で人気のお好み焼き屋となりました。

加齢にともなって、閉店せざるをえなくなりましたが、ここ最近までお店を切り盛りしていました。

料理は、決して得意ではなかった祖母。お好み焼きの味は、可もなく不可もなしというレベルです。経営するのも初挑戦でした。どこに勝算があって、出店をしたのか。

以前、「最寄駅から外れにあっても繁盛店を作るノウハウ」(https://colum.shokujob.com/wp/news/2017/11/1135/)というコラムでも書きましたが、駅遠にある飲食店は、商売において不利です。

デメリットがある中で、お客様を集めることができた理由を、2つの視点から解説します。

①狙うべきは、患者と作業員。

客層が成功する要因となりました。
これは立地が関係しています。

お店があったのは、住宅街のど真ん中。目の前には、250床規模の救急病院がりました。近隣には、土木工事や紙業を専門にした会社が並んでいました。

常連客のほとんどは病院の入院・通院患者か、肉体労働系の作業員。もしくは病院へ見舞いに来た家族・友人の方々。

この立地と客層が功を奏しました。

なぜなら周りに競合となるような飲食店がなく、コンビニエンスストアも当時はなかったからです。ほぼ独占的に、地域のマーケットを狙うことができました。しかし、これは商売が難しい土地であることも意味します。

難しい環境を救ったのが、客層でした。病院の入院患者と、肉体労働者が求めていることと、お店が提供している商品が一致したのです。

お客様が求めたのは、美味しいお好み焼きではありません。薄い味付けの病院食に飽きた患者は、しっかりとした濃い味の料理。体力を使う労働者は、ボリューム感のある食事。どちらのニーズにも合ったメニューを、お店では提供していました。

祖母はこんなことを言っていました。

「病院のご飯は、味が薄い。患者さんは、物足りてへん。食べごたえがあるお好み焼きにせんとかん。でも、濃い味にも慣れてへんから、ソースを濃くしすぎたらあかん。山芋をようさん入れて、満腹感出るように工夫してんねん」

お客様が満足するポイントを、祖母は肌感覚で理解していたのだと思います。

②新メニューは出すな!看板商品はシズル感で勝負せよ

メニュー数は、決して豊富なお店ではありませんでした。

お好み焼き、焼きそば、オムそばなど、他店にでもあるようなジャンル。珍しい食材を使ったような、変わり種のメニューもありません。豚玉をはじめ、イカ玉やモダン焼き、ネギ焼きなどで、一般的な食材を使ったものばかりです。

新しいメニューが追加されることもありません。筆者は小学生の頃、祖母に質問をしたことがあります。

「なんで、新しいメニュー出せへんの?」

祖母は即答しました。

「そんなん誰も頼まへんわ。」

さらに続けて、一言。

「出しても、お客さんが選びにくくなる。」

新しいもの好きな筆者にとって、祖母の発言は衝撃でした。その時は、納得できませんでしたが、今考えてみれば、腑に落ちることです。

顧客が新しいメニューを、積極的に試したい層かというと、決してそうではありません。誰もオーダーしない商品を考えるよりも、誰もが好きな定番メニューで勝負する。

筆者は、定番商品の豚玉に人気が集まったのは、調理スタイルも関係していると考えています。お客様の目の前に立って、祖母は鉄板でお好み焼きを、1枚ずつ丁寧に焼き上げていました。

ジュージューと、徐々にきつね色になっていくお好み焼き。これをシズル感と言います。

アートディレクターで有名な水野学氏が書籍で、シズル感と定番商品の関係について、自論を述べています。⁽¹⁾

水野氏は「シズル感を、思わず手に取りたくなるような「そのものらしさ」と定義」した上で、「三ツ星レストランの料理でも、紙皿に載っていたら美味しさは半減するはずです。逆にコンビニの惣菜でも、立地な皿に美しく盛りつければ美味しく感じられるかもしれません。そういうふうに、何の気なしにぼくたちは感覚を総動員して、ものに接しています。」

さらにシズル感は「そのものの本質につながります。(中略)モノの本質をつかんで、みんながいいと思うものをつくるのは、とりもなおさず定番商品をつくるための条件」だと論じています。

お好み焼きの本質とは、何でしょうか。ソースとマヨネーズがドボッとかかって、青のりとかつお節が散りばめられたお好み焼きを、熱々の鉄板の上で、コテを使って、熱々のまま口に運ぶ様だと、筆者は考えます。

お客様は新商品ではなく、シズル感のあるお好み焼きを求めに来ていました。オープン以降、メニュー数は増えるより、むしろ減って行ったことを覚えています。

新しいメニューを出さなくても、豚玉で勝負できる理由が鉄板の上にはあったのです。

祖母は、新メニューに否定的だったわけではありません。何度か、新メニューを出したことがありました。それは新しい顧客層の集客が見込めそうだったからです。

夜間に足を運ぶお客様が多くなった時期でした。お好み焼きではなく、鉄板を活かした居酒屋メニューを、新たに追加しました。

定番商品も新メニューも、状況に応じて、そして顧客層に合わせて提供するという、ビジネスとしては基本的な態度を貫いたのです。

さいごに

あまり美味しくなかった実家のお好み焼き屋が繁盛した理由は、客層と○○にあった
味は決して高得点ではないお好み焼き屋でも、長年、お客様のおかげで経営を続けられました。理由は、お客様が求めていたことに、的確に応じることができたからです。

入院患者のお客様と祖母との会話が、印象的だったので、覚えています。

患者さん曰く「病室でテレビ見てたら、金かかるやろ。でも、ここはかからん。話し相手もおる。料理はいまいちやけどな。カレーは上手いねん。ボンカレーのレトルト使ってるからや。」

「ククレカレーや」と祖母が即答。

患者さんは嬉しそうに続けました。「来るの日課や。こっちが本拠地。ホームや。病院は仮やな。寝に行ったらなあかん。またこっち戻ってきたるねん。」

「はよ病院帰り」という祖母のツッコミが、笑い声とともに店内に響き渡りました。

憩いの場と言えば、月並みな表現となります。しかし、メニューや味つけだけではなく、顧客が求めるサービスを、祖母の千里眼で見抜いていたのかもしれません。

【参考文献】
⁽¹⁾著・水野学『デザインの誤解』(2016年学)祥伝社

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