“美味しいものをずっと変わらず”神戸の老舗洋食店の挑戦|グリル一平
1952年創業の老舗洋食店「グリル一平」。味と接客に妥協せず、70年以上守られてきた価値を次世代へと繋ぐ4代目・山本憲吾の挑戦。自分の強みを活かし、柔軟な働き方でキャリアを築ける環境がここにある。
グリル一平 4代目オーナー 山本憲吾(やまもとけんご)
Q:山本さん、今日はよろしくお願いします。まず最初に山本さんの手掛ける事業内容から聞かせていただけますでしょうか?
1952年に神戸で創業して以来、4代にわたり受け継がれてきた洋食屋です。現在は兵庫県内で5店舗を経営しており、それ以外にもEC、キッチンカー、お弁当の事業も手掛けています。モットーは「美味しいものをずっと変わらず」。今日は美味しくても明日は美味しくない。そんな波があってはいけません。毎日、同じ価値を提供し続けることにこだわっています。そして、もう一つ大切にしていることが接客です。お客さまに寄り添う接客ですね。その起点は、「お冷を切らさないこと」にあります。お冷が切れていないか常に目を配るということは、ずっとお客さまを見ているということに繋がります。その注意の延長線上で「これをしてほしい!」というお客さまの要望に気付けるようになります。最近では「美味しいものを変わらず提供し続ける」ことに難しさを感じるようになりました。なぜなら、店舗数が増え、自分の目が行き届かなくなりつつあるからです。「この程度でいいだろう」という妥協がお客さまの満足度をボヤけさせてしまいます。そうではなく、常に目の前のひとりのお客さまに対して、100%の満足を追求していきたい。そんな思いでお店を運営しております。

Q:ありがとうございます。山本さんは4代目としてグリル一平を引き継がれたと伺っております。どのような経緯だったのでしょうか?
3代目だった父の「憲吾に継いでほしい。」その思いに応えるように高校卒業後すぐに入社しました。しかし、この仕事がどうしても好きになれず1ヶ月で退社してしまったんです。その後は、大手スーパーなどで働き、日本の中心を見ておいたほうがいいだろう、ということで上京し洋食店で働くことになりました。これが僕にとって大きなターニングポイントになったんです。理由は好きではなかった料理が好きになったから。僕はもともと車が好きでお酒は飲まない人間だったんですが、上京前に免許取り消しになってしまって。それからお酒を楽しむようになっていったんです。休みの日とあらば街に出かけ、後輩との食べ歩き、飲み歩きを通してどんどん料理の世界にハマっていったんです。そんな生活を4年半ほどしたころ、グリル一平の社員が辞めるということで27歳の時に戻ることになりました。そこからは父とケンカの毎日。グリル一平の味を守りたい父親と、東京で学んだことを取り入れていきたい僕との間に溝が生まれたんです。結果、そのお店はこれまでの味を守り続け、それとは別で三ノ宮に僕のやりたいことを詰め込んだお店をオープンし新しい価値を提供することになりました。つまり、グリル一平の伝統と共存する道を選んだんです。そんな12年間を過ごしコロナ前に事業を引き継がせていただきました。
Q:となりますと、経営者になられてからの大半がコロナ禍だったかと思います。通常とは異なる経営環境の中で、どのようなことを大切にされてきたのでしょうか?
しっかりと数字と向き合う、ということです。実はグリル一平はコロナ禍のダメージをそこまで受けることはなかったんです。テレビ取材を受けてから認知が一気に広まり、媒体への口コミでも高評価をいただいていたことが幸いし、客足が落ちることがなかったんですね。しかし、一方で物価高の波も押し寄せていました。こんな時期にも足を運んでくださるお客さまに最高のものをお届けしたいという思いから、とにかく良いものを提供しつづけました。が、いざ蓋をあけてみると赤字だったんです。高騰し続ける原価に目を向けていなかったんですね。そんな状況を父から引き継ぎ、税理士を替え、一から数字に向き合いました。その税理士からは「このままいけば1年ももたなかった」といわれるほど深刻な状況でした。それからは段階的に値上げをさせていただき、それまでの評価もあって客足は途絶えることなく黒字化することができたんです。

Q:そんな大変な時期を支えてくれたスタッフさんには、どんな思いをお持ちでしょうか?
働き方の選択肢を増やしてあげたいと思っています。40代から上の方々ってどちらかというと後で楽をするために20代に頑張ってこられた方が多いと思うんですね。ガムシャラに働ける環境があったと思うんです。しかし、今はそうはいきません。時代がそれを許さない環境になっていますよね。つまり、働き方が制限されているんです。とはいえ、昔のような働き方は通用しません。そこで、グリル一平では給与とは別に業務委託契約を用意し、お店が休みのときに厨房を貸し、そこでできた商品を買いとる、なんて取り組みをしております。また、その買い取った費用を退職金として積み立てる取り組みもしております。もちろん、プライベートを充実させたい!という方もいらっしゃいます。その考え方も尊重すべきで、そういった方には週休2日制のところを週休2.5日にして月の休みを2日ほど増やせるような仕組みも整えております。
Q:既に週休2日を実現された上に、さらに働き方に柔軟性があればスタッフさんも安心ですよね!ありがとうございます。さて、この辺りから読者の方が気になってそうなことを伺っていきますよ!グリル一平では洋食店の他にキッチンカーなどの事業も手掛けられてますが、やはり最初は、店舗さまへの配属になるのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありませんよ。グリル一平ではホール・キッチン・セントラルキッチン・キッチンカー・配達、と5つの配属先があります。来られた方の希望や適性を考慮した上で配属先が決まりますね。ホールに配属された方はまずは外部研修を受けていただきます。感覚でする接客ではなく、誰でも同じ品質で接客できるよう業務を平準化することが目的です。キッチンは盛り付けから始まり、次に食材にパン粉をつけ、揚げ場で経験を積み、最後に焼き場で一通りのキッチン業務を覚えていただきます。その後は、店長やエリアマネージャーとステップアップしていただきます。セントラルキッチンは、洋食店の仕込みに必要な大量調理を一手に担う場所です。「現場はちょっと…」という方はこちらですね。キッチンカーは店舗の広告塔として集客には欠かせない存在。そして最後に、店舗と食材を繋ぐ配達業務があります。

Q:それぞれが大切な役割を担っているわけですね。キャリアアップという視点ではいかがでしょうか?
まさしくその辺りが課題になっております。キッチンスタッフに関しては、盛り付けからスタートし、最終的には焼き場でキッチン業務をひと通り覚えるわけですが、次のポストが店長なので、店舗数を増やさないとキャリアに蓋をされてしまうんですね。ですので、今後は店舗展開がカギになってくると感じています。ホールスタッフに関しては、その増えた店舗のホールスタッフの指導にあたれるような職を用意していこうと考えております。
Q:グリル一平の成長とともにキャリアアップしていくわけですね。
そうですね。でも、グリル一平にずっといて欲しい!とは思わないんですよ。次のステップにいってもらいたいと思っています。例えば独立です。僕は洋食屋というのはキャリアの「始まり」であり「終わり」でもあると感じています。「始まり」は、初心者でも料理の基本を学べる場所であること。「終わり」は、自分の城を築ける場所であることです。洋食は仕込みに時間と労力を要しますが、その分、料理の基礎をしっかりと学ぶことができます。その基礎にグリル一平のノウハウが乗っかれば、自分の城を築くことができる。グリル一平が、そんな未来へのステップとなれる存在でありたいと思っています。

Q:終盤です。ここで山本さんの思う飲食業の素晴らしさをお聞かせください。
自分の作った料理で人を感動させられる一番近い職業である、と思っています。どの仕事でも人を感動させることはできるとは思いますが、その中でも始められるハードルが低い仕事でもあるとも思います。また、独立し自分の城を構えることが夢だとすると、その夢までの距離は比較的近いと思いますね。もちろん、その分、リスクが高いのも事実です。ですが、成功しているお店やそのノウハウをそのまま自分のお店で再現することができれば、成功する確率はおのずと高くなります。グリル一平が70年以上続けてこられたことが一つの成功とするならば、夢の実現の過程にするにはとても良い環境だと思っています。
Q:ありがとうございます。最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。
この業界に悪いイメージを持たれている方も少なくないと思います。ですが、グリル一平はそのイメージを壊していきたいと思っています。もしご一緒できることになれば、ぜひご自身に合った働き方を選んでいただきたいですね。まずはやってみて、それからの判断でも遅くはありません。「楽しいな!」と思っていただけたなら、ぜひ続けてもらえたらと思います。