“神戸ビーフを気軽に”挑戦と感謝を胸に歩む飲食店の継承者|KOBE STEAK Tsubasa
父の遺志を継ぎ、2店舗を運営するKOBE STEAK Tsubasa。ホールとシェフの“ラリー”を大切に、お客様一人ひとりと向き合う接客と調理の融合。飲食の未来を切り拓く若き経営者の挑戦と、その背中を追う現場スタッフのリアルに迫る。
株式会社アドバンス 代表取締役 林義晃(はやしよしあき)
Q:林社長、今日はよろしくお願いします。まず最初に株式会社アドバンスの事業内容からお聞かせいただけますでしょうか?
令和元年12月3日に父が創業し、現在は三ノ宮駅からほど近い「KOBE STEAK Tsubasa 本店」と、北新地に「KOBE STEAK Tsubasa 北新地店」の2店舗を運営しております。神戸ビーフをリーズナブルにご提供しているのが特徴です。記念日や観光、接待など、さまざまなシーンでご利用いただいております。
Q:ありがとうございます。林さんは、令和7年4月に創業者であられたお父さまのご逝去を受け事業を引き継がれたと伺っております。もともと別のお仕事にも携わっておられたと存じますが、どのような経緯で現在のご事業を担われるようになれたのでしょうか?
僕はそれまで別の会社で新事業の展開を手掛けていた矢先に父の体調が悪化し、肺の病で入院することになったんです。会話も思うようにできない状態でしたが、僕が駆けつけたその日は違いました。父には「事業を継いでほしい」という強い意志があり、その想いが確かに僕に伝わってきたんです。その後、父と共に会社を支えてきてくれたスタッフの皆さんとも対話を重ねる中で、彼らの言葉や想いからも、父の意志がしっかりと息づいていることを感じました。そこで事業を引き継ぐ決断をし、他界後すぐに会社のメンバーに自分が継ぐ意思を伝えたんです。

Q:急な出来事で、戸惑いやご苦労も数多くあったのではないかと思います。そうした状況の中で、林さんご自身が大切にされている考え方についてお教えください。
自分の考え方を押しつけない、ということです。問題点に対して「こうしてほしい」「ああしてほしい」と一方的に伝えるのではなく、その問題点はどうしたら解決できるのか?を考えて、そして考えるだけではなく行動に移してどんどんチャレンジしてほしいと思っています。僕の役割はそのチャレンジできる環境を整えることです。自分が常識だと思っていたことが相手にとっては常識ではなかった、なんてことはよくあることですよね。ですのでそれまでの常識や固定観念にとらわれず、どんどんチャレンジしてほしいと思っています。例えば、北新地のお店です。立地がよく高級店が立ち並びますが、「神戸ビーフをリーズナブルに!」というそれまでのスタンスから一転して高単価のお店にチャレンジしていく。こうしたチャレンジによって、これまで自分たちの外側にあった価値観を取り入れていけたらと考えております。
Q:これからチャレンジを重ね未来を担う従業員さんへはどんな思いをお持ちでしょうか?
まず出てくる言葉は「感謝」です。先代が急逝し、年下の自分がいきなり社長となる状況を受け入れなければならなかった社員もいました。それでも誰一人辞めることなく、今もこうして頑張ってくれていることに感謝しかありません。もしあの時、社員が離れてしまっていたら‥‥‥と思うと、本当にゾッとします。そして、それはやはり先代が築いてきたお店づくりがあったからこそだと思っています。今なお力を尽くしてくれている社員にも、土台をつくってくれた先代にも、改めて「感謝」という言葉しかありません。

Q:ありがとうございます。まさに一致団結ですね。さて、この辺りから読者の方が気になりそうなことを伺っていきますよ!御社に入社して、まず最初にすることはどんなことでしょうか?
まずは現場ですね。ホールとシェフ、それぞれの持ち場に分かれてスタートします。ただ、理想は両方を担えるようになることです。なぜなら、ホールと焼き手であるシェフとの間には独特の“ラリー”があり、そのやり取りは空間を演出するうえで欠かせない要素だと感じているからです。とはいえ、最初から同時に習得するのは難しいので、まずはどちらか一方から始めていただきます。そして、いずれは両方を担えるようになっていただくのがベストだと考えています。
Q:中長期的にはいかがでしょうか?
早ければ2年ほどで店長を目指せると思います。よく「人・物・金」と言いますが、その中で人と物をしっかり管理できるようになれば、STEAK Tsubasaでは店長という役割を担っていただきたいと考えております。また、現在はゼネラルマネージャーに2店舗を見てもらっていますが、三ノ宮店には店長がいる一方で、北新地店には店長が不在なんです。ぜひ、そのポジションを掴み取ってほしいと思っています。

Q:2年で店長、となると結構早いですよね。優秀な方に恵まれるとポジションを争うかたちになってしまいそうですが、そのあたりはいかがでしょうか?
もちろん、優秀な方の活躍の場を増やすべく店舗展開をしていきます。ただ、それは今ではないんですね。今は店舗展開を進めるための体力づくりの期間だと捉えています。そのために、店舗運営だけでなく、催事への出店や物販、イベントへの参加、さらにはキッチンカーといった横展開も視野に入れています。これらの事業はこれまでに取り組んだことのない分野です。だからこそ、チャレンジできる環境が大切だと考えています。
Q:終盤です。林さんの思う飲食業の素晴らしさをお聞かせください。
やはり「人との出会い」だと思います。生産者の方々が想いを込めて育てた食材が業者さんを通じてお店に届き、それを料理人やスタッフが、お客さまのことを想いながら一皿に仕上げる。その過程の中で、生産者さん、業者さん、料理人、スタッフ、そしてお客さまと、たくさんの方と出会えることが飲食業の最大の魅力だと感じています。この出会いは一生ものですね。また、こうした出会いも含めて、飲食業はロボットやAIには決して代わることのできない仕事だと思います。なぜなら「食べる」ということはロボットやAIにはできないですし、そもそもなくならないからです。つまり、飲食のお仕事はこの先も変わらず存在し続ける普遍的なものであり、その土台に素敵な出会いがある。ということだと思うんですね。素晴らしいですよ。

Q:ありがとうございます。最後に読者の皆さまへメッセージをお願いします。
これからご一緒する方には、今、力を尽くしてくれているスタッフたちとともに、KOBE STEAK Tsubasaを一緒に作り上げていってほしいと思っています。そのためには、思い切ってチャレンジできる環境が欠かせません。私自身、まさに今その環境を整えているところです。その環境づくりも含めて、仲間として一緒に歩んでいけたらと思います。そして、僕自身もまだまだ知らないことがたくさんあります。だからこそ、新しく加わってくださる方から学ばせてもらえることも多いはずです。互いに刺激し合い、高め合いながら進んでいける。そんな関係を築けたらと思っています。
KOBE STEAK Tsubasa 本店 シェフ 土田康史(つちだやすし)
Q:続いて土田さん、宜しくお願いします。まず最初に土田さんのお仕事内容から、お聞かせください。
シェフとして、目の前のお客さまのために鉄板で焼き上げることがメインの仕事です。ただ単に焼くだけではありません。お客さまが求めている焼き加減や塩加減を汲み取り、その一皿に込めて提供できるよう、日々の仕事に向き合っています。

Q:ありがとうございます。土田さんはご実家が和食店を営んでいると伺っています。その道を継がれる選択肢もあったと思うのですが、あえて鉄板焼きを選ばれた理由をお聞かせいただけますか?
シンプルに自分がやりたいことが鉄板焼きだったからです。そもそも父から「自分のやりたいことをやればいい」と言われていて、継ぐ未来が決まっていたわけではありませんでした。それで学生時代を東京で過ごし、そこで働いた鉄板のお店で憧れのシェフと出会い、その背中を目指してこの道に進むことを決めました。鉄板焼きはオープンキッチンで、お客さまと会話しながら、その方に合わせて火加減や塩加減を調整できる。その楽しさに魅了されていったんです。そうした経緯があって兵庫に戻ってきたとき、KOBE STEAK Tsubasaでお世話になることになったんです。
Q:神戸には鉄板焼きやステーキハウスがたくさんあります。その中で、どうしてKOBE STEAK Tsubasaを選ばれたのでしょうか?
小規模なお店の方が、シェフとして早く活躍できると思ったからです。近くのホテルなども選択肢としてはありましたが、そこよりも即戦力として力を発揮できるのではないかと考えました。そして最後は、直感ですね(笑)。
Q:なるほど、直感って大切ですよね!ホテルのような大きな組織では、それぞれの持ち場でしっかり経験を積むことができますが、一方でシェフとして全体を任されるまでには少し時間がかかるケースもあるかもしれませんね。実際にTsubasaに入ってみて、「ここを選んで良かった」と感じることがあればお聞かせください。
自分に足りないところを教えていただけたことですね。東京でシェフをしていた頃は、どちらかというと「見て学べ!」という文化が強く、ほとんどが独学でした。ところがTsubasaでは、分からないことがあれば先輩方が丁寧に教えてくださいます。「なるほど!」と思うことが多く、大きく成長できたのが本当に良かったことです。そして、それも小規模だからこそのアットホームな雰囲気があって、先輩方に可愛がっていただけたからだと思っています。

Q:それも土田さんのお人柄あってのことですね!今後、Tsubasaにどんな期待を寄せていらっしゃいますか?
シェフとしての経験値をここで積んでいきたいと考えています。自分もこのままでいい!なんて思ってないんですね。常に成長していきたいんです。そして、その成長にはスタッフ同士の情報共有が欠かせないと思っています。今以上にもっと風通しが良くなれば、お互いに学び合える環境が広がり、さらに良いお店づくりにつながるのではないかと感じています。
Q:その向上心がお客さまを笑顔にさせているのかもしれませんね。ここで土田さんの思う飲食業の素晴らしさをお聞かせください。
やはり「お客さまの喜びが目の前で見られること」だと思います。料理を作って終わりではなく、その喜びを肌で直接感じられることが、この仕事の醍醐味ですね。鉄板焼きはオープンキッチンなので、お客さまとの距離が近いのも大きな魅力です。会話を交わしながら、その方に合わせた焼き加減や味付けで仕上げた料理をお出しする。そんなライブ感のあるやりとりが自分のやりがいにつながっています。
Q:ありがとうございます。最後に読者の皆さまへメッセージをお願いします。
食の道を選ばれ、何かカベに当たったとき、「この道を選んだ理由」を思い出して頑張っていただけたらと思います。