黒毛和牛にこだわる老舗焼肉店の信念|焼肉処哲

投稿日:2025年9月17日(水) 社長インタビュー

黒毛和牛にこだわり、誠実な仕事を積み重ねてきた焼肉処哲。ウソをつかず、本物を追求する。その信念のもと、今も“うまい肉”を届け続ける。

黒毛和牛 焼肉処 哲 オーナー 紅露哲也(こうろてつや)

Q:紅露さん、今日はよろしくお願いします。まず最初に紅露さんの事業内容から聞かせていただけますでしょうか?

2025年で創業33年目を迎える焼肉店を江坂で営んでおります。最近ではコスト削減のためにUS産の牛肉などを混ぜて提供する店もありますが、当店では一貫して国産の黒毛和牛、それもA5ランクのみにこだわっています。また、お肉だけでなく、お米や野菜もすべて国産にこだわり、いわゆる“地産地消”を徹底しています。そしてこのたび、このビルの2階に黒毛和牛のホルモン鍋をメインにしたお店の出店を決め、同じように選び抜かれた国産素材を使っていき、来てくださるお客様に喜んでいただこうと考えております。

Q:紅露さんは創業前、上京されていたと伺っております。どのような経緯で独立されたのでしょうか?

自分は徳島県の床屋に生まれ、そのままいけば床屋の3代目になる予定でした。しかし、若い頃は違う世界で自分の力を試してみたいという思いがあり上京したんです。結果的にはうまくいきませんでしたが、次のステージでは飲食の世界に進もうと決めました。父は厳しい人でしたが、食べ物だけはぜいたくをさせてくれて、よく焼肉を食べさせてくれました。そんなこともあって焼肉が大好きになり、中華か焼肉かで迷ったときに焼肉を選ぶことにしたんです。そこからは名店といわれる大阪の焼肉店で修行を積み、大阪の十三で独立させていただきました。

Q:ありがとうございます。江坂に腰を据えてこられた紅露さんですが、これまでどのようなことを大切にされてこられましたか?

ウソをつかないということです。いや、正確にはウソをつけないんですよ。ウソをつこうとする自分が許せないんです。意識してウソをつかないようにしているわけではなく、もともとそういう人間なんだと感じています。それはこの仕事においても同じです。料理、肉の品質、米や野菜、捌き方や仕込みなど、すべてにおいて本物だけを追求し続けております。そしてお金は後からついてくる、そう考えてこれまでやってきました。ただ、最近は少し時代が変わってきたようにも感じています。口コミを増やすにはどうすればいいか?バズらせるにはどうしたらいいか?と、逆算でお店づくりをするところも増えました。自分もそうした考え方についていかないと‥‥‥、と思うこともあります。ですが、そのためにお客さまにニセモノをお届けするわけにはいきません。ですので、これからも“本物”を追求していこうという考え方は変わらないですね。

Q:その真摯な姿勢が30年以上にわたり、お客さまや従業員さんの信頼に繋がっていったんですね。さて、この辺りから読者の方が気になりそうなことを伺っていきますよ!入社された方はまず、何から始めるのでしょうか?

現場からですね。ホールではなく、まずはキッチンに入っていただきます。肉の捌き方や、ユッケ・センマイ・サラダといったサイドメニューの仕込みからスタートです。サイドメニューについてはレシピがありますので、その通りに作っていただきますね。そして業務に慣れてきたら、食材の発注や店舗運営もお任せしていき、最終的には店長を目指していただきます。

Q:その後はいかがでしょうか?

冒頭でもお話しましたが、2店舗目として黒毛和牛のホルモン鍋を中心としたお店を出します。そして、行く先には集大成として、すべてにおいて本物を追求しきった3店舗目を江坂に出そうと考えております。そうやってお店の成長とともに、ご自身のキャリアもあげていってほしいですね。

Q:これから新たな店舗展開も控える中で、働くスタッフの方々にはどのような未来を描いてほしいとお考えですか?

「その方次第!」っていうのが正直なところです。でも、ひとつ確かなのは「自分はいずれ必ず引退する」ということ。つまり、このお店を誰かに任せる日が必ず来るということです。屋号や場所は今のまま使ってもらって利益を折半するような形でも構いませんし、のれん分けのような形でもいい。もし独立したいということであれば、金銭面での支援も考えております。要するに、少し厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、「僕に頼ってほしくない!」ってことなんです。今、日本人は何かに没頭して働く時間が減っていると感じています。一方で、外国人労働者の方々は本当によく働いていて、結果として働く居場所を奪われるような状況にもなりかねないと思います。だからこそ、今の若い人たちにも自らの力で未来を切り拓いてほしいと思っています。

Q:なるほど。確かにそうですね。母国に残してきた家族を幸せにするためにいわば出稼ぎのような形で日本に来ている方々がいる中で、同じ仕事でも、その取り組む姿勢には大きな差があると感じることもありますよね。終盤です。紅露さんの思う飲食業の素晴らしさをお聞かせください。

やっぱりお客さまに「ありがとう!」とおっしゃっていただけることではないでしょうか。僕はお店を始めたもう一つの理由に「黒毛和牛を広めたい!」という思いもありました。ウマくてとろけるようなお肉を大衆の皆さんに食べていただきたかったんです。しかし、時代がそれを許さず、所得格差と物価高の影響で、黒毛和牛がいつしかぜいたく品になってしまいました。つまり、黒毛和牛を広めにくくなってしまったんです。正直、モチベーションは下がりました。しかし、今でも地域に根ざし、本物の黒毛和牛をリーズナブルな価格で提供し続け、そこに価値を感じていただいたお客さまでまたお店が賑わう。そうやって喜んでいただいたお客さまがまたお店に来られる。そう思うとやっぱり嬉しいですし、どれだけお客さまを喜ばせたい!と思えるか。そこがこの仕事の本質的なところだと思いますね。

Q:ありがとうございます。最後に読者の皆さまへメッセージをお願いします。

どんなお仕事でも一緒だと思いますが、単に生活するためにこの仕事を選ばれるのであれば、労働環境が徹底された大手に行かれた方がいいと思いますね。でも、お客さまを喜ばせるためには時にはその考え方が壁になることもあります。だからこそ、「自分は何をしたいのか?」という問いに向き合いながら頑張ってほしいですね。