失敗する経営者が微妙なアイデアしか出せない理由(前編)
飲食店を開業する際、「これなら絶対に流行る」「他店に負けない魅力的なお店になる」そんな確信を持てるアイデアが欲しいものです。
しかし失敗する経営者は、なかなか良いアイデアを出せません。決め手となるものがなければ、飲食店を開業しても、成功に至ることは難しいでしょう。
失敗をしてしまう経営者は、どんな発想や行動をしているのでしょうか。彼らの共通点を探りながら、成功するためのアイデアを出せる発想術について、3回のシリーズで紹介します。
飲食業界の廃業率は18.9%
日本政策金融公庫が行っている「新規開業パネル調査」⁽¹⁾から、飲食業界で生き残ることの厳しさを見ておきましょう。
業種別の存続廃業状況において、2011年末から2015年末の5年間における全業種の廃業率は平均で10.2%でした。これに対して「飲食店・宿泊業」の廃業率は18.9%となっています。
ほかの業種に比べても高い廃業率を叩き出している外食産業。お店を開業はできても、存続させることは簡単ではありません。
なぜ、継続的にお店を運営できないのでしょうか。集客や売上・利益の低迷、資金繰り悪化などの原因が挙げられます。
しかし開店をする時点で、成功するか否かの明暗がわかれています。とくに危険なのはアイデアが不十分だったり、戦略に乏しかったりするケースです。タイトルには微妙なアイデアと付けましたが、思い付きや中途半端な考えで開業をしても、軌道に乗るはずがありません。
そこで失敗する経営者の共通点について、3つのポイントから見ていくことにしましょう。
失敗する飲食店経営者の3つの共通点
①自分で考えない・決断を下さない
失敗しがちな経営者は、他人の意見に振り回される傾向にあります。言い換えれば、自分の考えに確信を持ったり、自分で決断を下したりしないということです。
厳しい言い方になりますが、他人の考えやまわりの意見に依存してしまうことが、成功を遠ざけます。とくに成功している経営者の発言や、メディアで注目されていること、読んだ書籍に書かれていることを鵜吞みにする人は注意が必要です。
他人の意見を参考にする、手がかりにする程度なら構いません。しかし自分でアイデアを組み立てなければ、自信や責任、納得感も生まれないでしょう。
自分の考えがない人は、いつも不安でいっぱいです。その不安を埋め合わせるように、また他人にアドバイスを求めるようになります。
以前、取材をした居酒屋のオーナー様が、興味深いことを話してくださいました。
「将来開業したいという人材をうちでは採用しています。独立支援を積極的に行っています。でも自分の意見を持っていない人は、採用しません。ある方法で見極めています。うちのお店に合わせないのは、トレンドの食材や料理、飲食店で流行らそうと目論む人です。トレンドが悪いわけではありません。しかし自分で考えて、考えて、考え込んで出した答えでなければ、お店は負け戦となります。開業をしても、流行が去れば、お店もすぐに畳むことになるでしょう。悩むことなく、手軽な答えに頼れるほど経営は甘くありません。以前、クラウドファンディングをして起業をしたいという求職者がいたんです。理由を聞けば、話題性が高いからということでした。sabarさんがクラウドファンディングをして、飲食業界でも注目され始めた頃です。話題を呼ぶかもしれませんが、調達した資金を活かして、どんな魅力あるお店にするのか、彼には戦略がありませんでした。他店のやり方を継ぎはぎしたような考えだったことに、違和感を覚えたことがあります。」
②漠然とした考え方
飲食経営では、漠然とした考えは不要です。曖昧に考えても、出てくる答えは曖昧なままです。どんなお店にしたいのか、なにを看板メニューにしたいのか、どんなお客様に来てほしいのか、いつまでも判然としません。
とくに失敗しやすい人は、アイデアを出すことはもちろん、なにが問題になっているのか、その原因がどこにあるのかを考えることも漠然としています。問題と向き合う自信がなくて、現実的に考えない人もいます。
解決すべき問題がわからなければ、答えがわかることもないでしょう。さらに目先の問題に振り回されてしまいます。
筆者が知人のイタリアンのオーナーシェフから聞いた話があります。
「スタッフが次から次へと辞めていったことがあったんです。人間関係が悪くなった時がありました。仲が悪ければ、良くすればいいのだと、スタッフの飲み会を開催したんです。良くなるどころか逆効果。信頼していたスタッフがお店に来てもらえなくなりました。今思えば、無鉄砲なことをしてしまったと後悔しています。なんでスタッフに理由を聞かなかったのか。ぼくが恐れていたのもあります。人間関係悪くなることとか、辞められるのとか。スタッフがどんな不満を持っているのか、具体的に聞くべきでしたね。職場の環境を、根本的に解決する力が、僕にはありませんでした。ただ従業員の顔色や機嫌を伺って、辞めないように神経をとがらせていました。この失敗を活かして、改善しました。今では従業員から働きやすいとか、仕事が楽しいとか言われることが増えたんです。」
③極端な熟考派か、行動派タイプ
考えすぎて、なかなか動けない、動くまでに時間がかかるタイプの人。または動いてばっかりで、失敗をした時に立ち止まって振り返れない人。どちらの場合も、継続的な成功には結びつきません。
成功するタイプの経営者は、行動をしながら考えるか、考えながら行動をしています。とくに問題は、考え込んでしまうタイプの経営者です。決断が遅くなれば、行動に移して、成果を出したり、改善をしたりすことも遅くなります。
アイデアを実際に試すためには動かなければなりません。上手くいかない場合は、考えて軌道修正をする必要があります。
神戸でイタリアンのビストロを営む知人から、開業当時のことを聞きました。昔から行動派だという彼。
「見切り発車で開業をしました。良い物件に出会えたので、逃したらあかんと急ぎました。最初はランチが安くて、ボリューム満点ということで、お客さんは集まったんです。でもディナーにはつながらんし、売上は一定やけど儲けなし。気にせずに、何とかなるやろうかと思って、営業をしてました。でも、ある日、融資とか家賃、仕入れとかで、お金がないというピンチに立たされました。このままではお店が存続せんということで、はじめてちゃんと考えました。運良く何とかなったんですが、もっと早く対策しとくべきでしたね。猛反省しています。」
さいごに
なぜ失敗する経営者は微妙なアイデアしか出せないのかをテーマに、上手くいかない経営者に見られる、共通点を解説しました。
3つの共通点をまとめてみましょう。失敗する経営者とは、自分で行動しながら考えて、問題を具体的に解決できない人のことです。
したがって、核心を突くアイデアや画期的な考えを持つことができません。開業はできても、成功するまでのプロセスを歩むことは難しいでしょう。
次回のコラムでは、起業で失敗をしないためにも、名案を出せるノウハウについて紹介します。
【参照文献・サイト】
⁽¹⁾日本政策金融公庫|新規開業パネル調査
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_161228_1.pdf