店長・マネージャー必見!指揮者から学ぶリーダー論<終章>
前回お伝えしたのは、素晴らしい指揮者ほど、指示をしなければ命令もしていないということです。
むしろ演奏家たちが、自分の演奏に誇りを持てるように、そしてクリエイティブな演奏ができるように指揮をしているのです。
この現象を説明するために、今回は偉大な経営者の一人である松下幸之助氏が語ったリーダー論からアプローチしてみます。
松下幸之助のリーダー論
松下氏曰く、リーダーになるために備えておかなければならない条件は、以下の3つ。
<1>愛嬌
<2>運が強そうなこと
<3>後ろ姿
哲学者の鷲田清一氏が、それぞれの条件について、こんな解説をしています。
「愛嬌」のあるひとにはスキがある。無鉄砲に突っ走って転んだり、情にほだされていっしょに落ち込んでしまったりする。だからまわりをはらはらさせる。わたしがしっかり見守っていないと、という思いにさせる。
「運が強そうな」人のそばにいると、何でもうまくいきそうな気になる。その溌剌として晴れやかな空気に乗せられて、一丁こんなこともやってみるかと冒険的なことにも挑戦できる。
だれかの「後ろ姿」が眼に焼きつくときには、見ているほうの心に静かな波紋が起こっている。言葉の背後に秘められたある思いに想像力が膨らむ。何をやろうとしているのか、何にこだわっているのか、そのことをつい考える。
そう、見るひとを受け身ではなく、能動的にするのである。無防備なところ、緩んだところ、それに余韻があって、そこへと他人の関心を引きよせてしまうからだ。⁽¹⁾
このようにリーダーの条件は、明確な指示やブレない軸ではありません。
むしろ一緒にいるだけで、やってみようかという意欲がみなぎってきたり、なにか上手く行きそうな気持ちが湧いてきたりする、そんな人物がリーダーにふさわしいのです。
さきほどの指揮者では、最後に紹介されたレナード・バーンスタインが、まさに松下氏の言うリーダー像に近い人物でしょう。
指揮棒は持たず、具体的な身振り手振りもありません。
ふと浮かべる愛嬌ある表情にオーケストラはモチベーションをさらにかき立てられ、さらに演奏に酔いしれている、そんな指揮者の後ろ姿に聴衆は前のめりになっています。
抽象的な表現が続きますが、指揮者としてやるべきことよりも、やるべきではないことは最低限ポイントを押さえておいてください。
すなわちコントロールをすればするほど、命令形の指示をすればするほど、オーケストラはまとめられないという点です。
京都市内にある焼き鳥屋の事例
京都市内の焼鳥店で店長を務める方に、このようなエピソードを聞いたことがあります。
「店長に昇格した時、頑張らなあかんと思って、かなり張り切っていました。完璧に仕事をしたかったんで、スタッフにも厳しくしました。失敗は許さんという態度でした。お客さんからお酒のことを聞かれて答えられへん子とか、声の返事が遅かったり小さかったりする子とか、結構しかってましたね。でも、言えば言うほど、どんどんスタッフのやる気が下がっていく。メニューのことも覚えてくれへんし、返事も悪くなっていく。店長として頑張っているのに、なんかおかしいぞって思ったんですよ。」
悩んだ挙句、ここから意外な行動をとりました。
「全部、逆のことやってみたんです。まず遅刻してみたんですよ。今まで誰よりも早くお店に来てたんですけど、遅れてみた。本当はダメですけどね。でも、世界が変わりました。スタッフがぼくの仕事をかわりにやってくれてたんです。で、めっちゃ謝りました。店長でもドジることあるんですね、って言われたんです。さらにスタッフの出来ないことをあえて褒めてみたんです。返事は小さくても、その声が好きやわとか。メニュー覚えへんくても、お前がオススメしてくれる料理は注文したくなるわ、とかね。すると返事はよくなるし、記憶力も抜群に上がったんですよ。そこからは、もう自由にさせてます。店長、放棄(笑)。今はカウンターに座って、お客さんと一緒に飲んでみんなの仕事ぶりを見守ってる時間が多いですかね。」