スタッフがインフルエンザに感染したら、店長がするべきこと
通年11月から感染・発症する人が出始め、1~3月ごろまで流行する季節性の病気。
平成30年6月15日時点における、国立感染症研究所関係部・センターの報告によると昨年度の累計推計受診者は近年よりも大きく上回り、2018 年第 17 週時点では、インフルエンザによる入院患者の割合が、前シーズンと比較するとすべての年齢群で報告が増加し、60 歳以上の年齢層においては約 2 倍の報告がありました。
ワクチンで予防していても、感染してしまうインフルエンザ。
これからの季節、一番気をつけたい病気の1つですね。飲食店を経営するみなさんにとっても営業の不可を左右させる大きな脅威となるでしょう。
今回は【もし、スタッフがインフルエンザにかかったら?】ということをテーマに飲食店の労務管理について紹介します。正しい知識をしっかりと身に着け、万が一の場合に備え対策をしていきましょう!
店のスタッフがインフルエンザにかかったらどうする?
皆さんが飲食店の店長なら、 スタッフがインフルエンザにかかった場合、どのような対処を取りますか?
何日くらい休ませるべきか?熱が下がれば出勤していいのか?
様々な疑問が湧き出てきますが、まず第一に
店舗(企業)としてどういう扱いをするのかルールを決めることが大切です。
かつて、みなさんが小学生や中学生だった時は、インフルエンザに感染した際は1週間程度の欠席しましたよね。これは“発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで出席停止”する「学校安全法」により強制的に欠席を義務づけられていたからです。
一方で、季節性のインフルエンザは法律で就業禁止とされていないため、店や法人での取り決めに沿って対処することが求められます。
なぜインフルエンザは就業禁止にならないのか?
なぜ、インフルエンザは「就業禁止」にならないのでしょうか?
実際に飲食店を経営されている方はご存知かと思いますが、
店舗運営には切ってもきりはなせない「労働安全衛生法」という法律があります。
これは健康診断や職場の働きやすい環境維持のために定められた法で、
店側はここに沿って運営を行うのですが、第68条によると「病者の就業禁止」について
「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令に定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令に定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」
と規定されています。(厚生労働省:http://ohtc.med.uoeh-u.ac.jp/jissenkensyu-el/pdf/h_1.pdf)
また、規定の「伝染性の疾病その他の疾病」については下記のように分類されています。
1類感染症 | エボラ出血熱、痘そう、ペストなど |
2類感染症 | 急性灰白髄炎、結核、鳥インフルエンザ(H5N1)など |
3類感染症 | 腸管出血性大腸菌感染症、コレラ、腸チフスなど |
4類感染症 | E型肝炎、黄熱、狂犬病、マラリアなど |
5類感染症 | インフルエンザ(鳥インフルエンザ、新型インフルエンザを除く)麻しん、風疹、梅毒など |
その他 | 新型インフルエンザ等感染症など |
これらの病と就業禁止の関係性ですが、上図1~3類感染症は就業禁止となり、4・5類においては法律上就業禁止とされていません。つまり5類感染症に該当するインフルエンザは、必ずしも就業禁止と言い切ることができないのです。
よって、店舗によってインフルエンザにかかった際の取り扱いを決めておくことが、
さらなる店内感染の予防をすることになり、営業においても最善であると言えます。
飲食店がルールを取り決める方法は?
営業のことを考えると人手がほしいのは本音だけれど、
その後の影響を考えるとスタッフには休んでもらうことが一般的ですよね。
しかし、前述のように、インフルエンザは法律上の就業禁止にはならないため、
労務管理上の取り扱いについて店舗における就業規則を定めておくことが重要です。
いま皆さんのお店には就業規則があるでしょうか?
もし法人で定めているものがあれば、規則の中に「就業禁止」に関する内容があるかの確認をしてみましょう。
たとえば、下記のような内容があれば、
医師の診断を取った上での会社の判断でスタッフを休ませることができます。
対応方法 | 対策 | 注意点・備考 |
①通常の欠勤 | 通常の欠勤対応(原則無休) | 感染拡大の恐れがあるため、自分で判断せず病院にいってもらう |
②医師の診断を経て欠勤 | 必ず病院に行ってもらいスタッフが診断書と共に店舗に報告 | 対応は通常の欠勤対応でOK(原則無休) |
③店舗判断で就業禁止 | 治癒の状況に関わらず「一週間は就業禁止」として規定 | 勤務可能な状況下において強制的な就業禁止規定がある場合、休業手当を支給する必要がある |
(※『飲食店経営 2018年3月号』pp.56-57「Q&Aで分かる飲食店の労務管理」(こんくり(株)安 紗弥香)の【スタッフがインフルエンザにかかった場合の店舗の対応】参照)
しかし、店舗の判断によりスタッフを休ませる場合は注意が必要です。
休業手当の支払いは必要なのか?
店側の判断で休ませるということは、スタッフが「出勤したい!」と思っても「休みなさい」と命を下す形になるため、就業規則の規定がない場合は、労働基準法上「休業手当」の支払いが必要となります。
休業手当とは、店舗がスタッフを休ませた場合に当人の給与が0となることで、生活への負担を少なくするための手当。計算の仕方は、 「休んだ日以前3か月間に支払われた給料の総額を、その期間の暦で割った賃金」の6割を支給することになっています。(2018年現在)
休業手当=休ませた日数×平均賃金の100分の60にあたる金額
この休業手当は、原則として規定の「賃金支払日」に支払うべきだとされています。
何か特別な手続きをしたりとか、書類を提出したりする必要はありません。
通常の給料を振り込む際に、まとめて支払うことになっています。
もし、休業手当を支払わなかった場合は、労働基準法違反として「30万円以下の罰金」が課せられるケースがあるため、特に注意しなければなりません。トラブルにならないためにもインフルエンザが流行するこの時期はなおのことイレギュラーな場合に備えて正しい知識を備えておくことが必要です。
また休業手当と言えども給料の4割は差し引かれてしまうので、
スタッフが「有給休暇を消費したい」と行ってくる場合も十分にあり得ます。
このような場合は、休業手当の支給の代わりに有給休暇の取得をもって対応することも可能です。ただし、店側が強制的に有給を消化させることのないようにだけ注意しましょう。
スタッフがインフルエンザで休んだ時は・・・!
以上、従業員インフルエンザにかかった際の対処法についてご紹介しました。
簡潔にまとめると
①日頃のインフルエンザに備え、店・法人でルールを決めておく
②インフルエンザに感染したスタッフを会社の判断で休ませる場合、休業手当の支給あるいは有給休暇の消化をして補償をする必要がある
ということです。
飲食店は日々の経営が忙しく、労務管理が見落としがちだという店舗も少なくありません。
しかし、「何も知らなかった」と言い続けていれば、後々大きな問題として返ってくるかも・・・?
2018年も、今からのシーズン、インフルエンザの流行が予想されます。
忘新年会・歓送迎会の営業で忙しくなる前に、身体の予防接種はもちろん
「経営のインフルエンザ対策」も十分に行っておきましょう。
【参考文献・URL】
・「NIID国立感染症研究所」ホームページ
・「厚生労働省」ホームページ
・『飲食店経営 2018年3月号』pp.56-57 こんくり(株)安 紗弥香「Q&Aで分かる飲食店の労務管理」(株式会社アール・アイ・シー/平成30年3月発刊)