『弱虫ペダル』のリーダー論②~3つのリーダーシップとは~
週刊誌『週間少年チャンピオン』に掲載中の漫画『弱虫ペダル』(©渡辺航)を考察した結果、
常にチームの高いモチベーションを維持するためには、強いリーダーシップを持つリーダーの存在が重要であることが分かります。このことは、飲食店の現場においても同じであると筆者は考えました。
そこで今回は「リーダーのあるべき姿」をテーマとし『弱虫ペダル』に登場する各チームのリーダーから、ビジネスパーソンとしてのリーダーシップについて考察していきたいと思います。作中では個性に富んだ様々なリーダーが登場しますが、1年目のインターハイで特に主要となる3名の登場人物についてご紹介。
リーダー論を学びたい方、部下や後輩をもつマネージャーや店長バイトリーダーの方はぜひ参考にしてみてください。
⑴最高のカリスマ性を備える圧倒的王者「福富 寿一」(箱根学園)
(出典:渡辺航『弱虫ペダル』)
まず最初の人物は、主人公のライバル校である
神奈川箱根学園のキャプテン・エース、福富(ふくとみ)です。
■キャラクターについて
ロードレーサーの兄や父をもつ彼は、まさに自転車競技界のサラブレッド。
自身の能力に圧倒的プライドと自身を持つ「カリスマ」です。決めセリフは「俺は強い」。
■常に皆の見本であり、憧れであるリーダー性
最強校の主将として常に堂々としており、「俺は強い」と常にメンバーの前に立つ姿が作中何度も見られます。
圧倒的実力の持ち主ですが、「オレたちの箱根学園というチームには始めからお荷物などいない!!」というセリフからも分かるようにメンバーを見下すこともありません。作中のインターハイでは「最強のチームを作り上げ正々堂々勝負して勝つ」ことをモットーとし1日目・2日目のレースでも一位を獲得しています。
確実に勝利を勝ち取る信頼感と強さから周りの選手にとっては「憧れの対象」そのもの。
その結果、嫌々強制ではなく自ら「この人についていこう!」と思わせるカリスマ性を兼ね備えています。
この人柄に惹かれ、福富が率いる箱根学園の総部員数はなんと50人以上にも。
■最強のチームワークは信頼と周囲のメンバーの協力によって
口数は控えめで、表情の変化は少なく、いつも厳しい顔をしている様に見える福富寿一。
控えめなコミュニケーションが凶となって、付き合いの浅い後輩たちにまで指導の真意が伝わり損ねることもあるが、同級生の信望の厚いメンバーがフォローすることでチーム全体としてはまとまりがあります。
確実にトップであろうとする福富は、時折メンバーが「キツイ」と思う無茶なオーダーを決行することがあるもののそれは、絶対的な信頼をいだいているからこそ。「大丈夫だ オレはおまえたちが追いついてこれるとわかっていた!!」と苦しい時にこそ、本音で語りかけることによって、仲間のモチベーションも上がっています。互いの信頼とメンバーの協力によって、勝利の頂点へと駆け上がることができるのです。
■チーム作りについて
メンバー選定は強靭な筋肉をもつ2年生の泉田塔一郎を「スプリンター」に。優勝の頂を手にするためなら上り坂すら味方にする1年生の天才、真波山岳を「クライマー」として抜擢。選考の基準は何よりも「実力」であり、それを発揮し魅せる相手を信頼しています。
チームへの指示は、信頼ゆえに基本的には「お任せ」で大まかなところがあります。しかし「俺、追いましょうか」と、間違った方向に進もうとするメンバーには「ダメだ」と言ってきちんと指導しています。
⑵強さの本質は純粋すぎる勝利への渇望!「御堂筋 翔」(京都伏見高校)
(出典:渡辺航『弱虫ペダル』)
次に紹介するのは、京都伏見高校のエース御堂筋です。
■キャラクターについて
彼は1年生にして、入部早々態度で勝負を言い渡し、3年生エースだった先輩の石垣をレースで負かせて強引にナンバーワンポジションを手にした、京都伏見のエースです。 1年にして、王者「箱根学園」に宣戦布告を行うなど、勝利に対してのこだわりは福富勝るとも劣らないほど。「努力」仲間との「馴れ合い」を嫌い、結果がすべてだと考える究極のリアリストです。
メンバーの先輩にさえも「ザク」(雑魚の意)と吐き捨てる、愛想や礼を持たない人物として登場します。
■絶対的な実力でチームを従わせる独裁政治
前年のインターハイで全国9位だったチームの先輩に圧倒的力の差を見せつけ「優勝させるから僕に従え」と迫り、上級生からリーダーの座を奪います。
御堂筋のリーダースタイルは「徹底的かつ緻密な管理体制」が特長的。
勝つための戦術は何手も先を読んでおり、そこに基づく命令は非常に具体的です。ただし、指示された側は「言われた通りに動く」ことだけが求められ、提案はおろか自己判断をする余地もありません。メンバー選定と役割分担も、自分の判断だけで決めます。
つまり、御堂筋はメンバーを信頼していないのです。
彼にとってチームメイトは「チェスの駒」でしかないので、利用した後は切り捨てることにも全く躊躇がありません。作中のセリフ「動かへん兵隊はいつでも切るで(37話)」とあるように、レース中命令に従ったがために力尽きてしまったメンバーを“プラン通り”見捨てることもしばしば。
■勝利にきれいごとやなれ合いは「キモ」く不必要
冒頭で述べたよう、彼の求めるものは1番の勝利、たったそれだけです。そのため仲間との馴れ合いや一生懸命頑張る「努力」と言った綺麗ごとには一切興味を持たず、「キモッ」「キモッキモッキモッ」と連発している姿が見られます。
■チーム作りについて
たった一つの勝利を手にするため、ストイックで厳しい独裁政治によってチームを統一しようとします。
チーム内では唯一の1年生ですが、先輩を含め部員には自分を「御堂筋君」と呼ばせる。
部員同士は“番号”または“苗字”で呼び合うといった行為を強制、 レースに負けた際には、全員坊主にすることを言い渡し、自分の戦略への徹底した「服従」によってチームをまとめます。
他人に興味がなさそうですが「量産型」ではないと思った「使える人材」には自らすすんでアドバイスもします。また厳しい時のレース中には「(捨て駒ではなく)キミが全開で引く意味は…あれやよ、もしキミがこの登りこのまま前でボクを引けば、キミが山岳賞やで?」と、相手の心理を突いた巧みな話術で平凡なチームメイトを上手に扱い、モチベーションをupさせ目標達成のための有力な駒としています。
この独裁制は一見、酷い・・・と思うかもしれませんが、彼のお陰で前年9位だった京都伏見高校は、その後常に優勝争いをする強豪チームとして認められるようになりました。(1位を獲得することも!)
ボスとして適格にメンバーを誘導し、しっかり成果を出すという観点からは、彼のスタイルは決して間違っているとは言えないでしょう。
⑶チームの支えで勝利をつかむ「金城真護」(総北高校)
(出典:渡辺航『弱虫ペダル』)
そして3人目は、主人公である小野田坂道のいる千葉総北高校のエース金城です。
■キャラクターについて
どんなピンチな状況においても、決して勝負を諦めることのない、不屈の精神の持ち主で「石道の蛇」の異名を持っています。 箱根学園のリーダー福富とは、互いに因縁の相手で、福富に匹敵する実力を持っています。
■全員が支え合うことを信念とするチーム
メンバーを信頼すること、実力派主義者であることなど福富と似通った部分もある金城ですが、彼がリーダーとして最も長けているのは、“メンバーを支えること”に力を注ぐというところです。
メンバーがみんな経験者で、1人だけ素人なのに選抜された主人公が、悩みながら「頑張らなくちゃですよね」と言った際に、金城は「頑張らなくてもいいさ」と答えます。
「ひとりで頑張らなくてもいい」「お前が倒れたら俺が支える」「しかし、誰かが倒れたらお前が支えろ」
彼のこの言葉には、誰か一人が無理をする必要はない。但し、互いに支え合う事は忘れるなという意味合いがあります。「全員が支え合うのが在るべき姿」というぶれない信念を1人1人に共有することで、チームが望まんとする方向性を指し示しています。
■メンバーの個性で役割をしっかり
金城のオーダーは御堂筋のように「お前はこれをやれ!」ではなく
「お前の役割は〇〇だ」と、チーム内での各メンバーの立場を明確にしてあげることが前提にあります。
それによってメンバーの心には「この人の期待に応えたい」という強いモチベーションが生まれ、
各々がもつ個性とパワーを発揮することが出来ます。
その集団の中で、自分のポジションが明確になるということは、自分がチームにとって「欠かせない存在」であると認められること。こうすることで金城は、1人1人が勝利を掴むべく、自らベストを尽くすことのできる最高のチームワークを築き上げることに成功しました。
■チーム作りについて
「スプリンター」「クライマー」「オールラウンダー」の各役割に実力のある1年生を配属させ、インターハイではそれぞれのポジションを担う3年生が、未来を担う後輩に向け、在るべき姿を言葉でコミュニケーションを取り、実際の背中で手本を見せることで想いを引き継ぎます。そして金城の卒業後、主人公たちが2年生になった際のレースでは金城が守り続けてきた信念をもとに選手たちはさらなるパワーアップを遂げていくのです。
あなたはどのタイプ?弱虫ペダルから学ぶリーダーの姿
いかがでしょうか?
スタイルの異なる3人のチーム作りをもとに、リーダーのあるべき姿を考察してみました。三者三様やり方は違うものの、各々の方法でメンバーのモチベーションを上げチームワークを結成し、チームを優勝へと導きました。
福富のようなリーダーとしてのカリスマ性は理想的かつ便利ではありますが、誰しもがその要素を持っているとは限りません。御堂筋のような暴君型な指導者も、態度によっては反感を買う事もあるかもしれませんが、
組織の目的を成し遂げるためには、最も適切なスタイルだという場合もあります。
一方、バランスの取れた金城のスタイルも一番理想的だと思った方も多いかと思いますが、
しっかりとチーム間での意思疎通を図らなければ、なあなあな雰囲気になりやすいかもしれません。
飲食店でのチームワークづくりに対して、どのスタイルが絶対に良くて、絶対に悪い、と言い切ることは難しいですが、店長・マネージャー・バイトリーダーである皆さんの目的をハッキリとさせ、自身の性格に合った形での「指導者」を目指すべきだと筆者は考えます。
以上、2部に渡る人気少年マンガ・アニメ『弱虫ペダル』から学ぶリーダー論でした。
■ファカルティズ・コラム-ビジネス・スキルを高めるヒント集:『弱虫ペダル』で考えるリーダーシップ
http://www.keiomcc.net/faculty-blog/2014/04/post-298.html
■サイボウズ式
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/?p=5327
■PRTIMES:「シリーズ1,700万部突破!今最も熱いスポーツ少年漫画『弱虫ペダル』遂に大台50巻到達!4/13(木)から東京飯田橋で複製原画展開催!! さらに4/17(月)には渡辺航先生のサイン会開催!」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000051.000005279.html
■経営MAGAZINE【売上の上がらない飲食店】チームワークのない店
http://www.keiei.ne.jp/list/column.html?cid=10071703